三題噺「ドラッグ・楽園・南京錠」
そんな三題に反逆して書くという無謀。
出来は多分良くない。でも晒す。
(ちなみに三題の抽選もとはこっちでやった)
なお、「サフィズムの舷窓+???」な何かです。
本文中でお題は色分け表示で。
「……おぁ、珍しい奴から来てる」
久々の郵便・郵送物受け取りの日。
どーせいつものオヤジからの大荷物しかないだろーと思ってたら(実際それは間違ってなかったけど)、それに混じって手紙が一通来てた。
それも日本から。
差出人は……
「やあニコル! あれ、どうしたんだいその手紙? なんだかニコル嬉しそうだし……あーもしかして、とうとうパパ・ジラルドがボク達のことを祝福して!」
「ねーよ」
杏里のボケ倒し……いやこいつはいつでもマジだっけか、まあどっちにしろそいつを軽くスルーかます。
しっかし、嬉しそうねえ……これくらいでそんな風に見えちまうんじゃ、あたしもまだまだって気もするけど。
「いや、ガキの頃のダチから手紙が来ててさ。あーそうそう、それがこいつ日本人でねえ」
「へえ? ニコルの小さい頃の友達なのにかい?」
「うん、確か料理の勉強の為に留学に来てた、だったっけかな。そん時にたまたま知り合ったんだけど……お、写真が入ってら」
取り出して、一緒に見てみる。
写ってるのは……女三人。眼鏡を掛けた美人さん、ちっさくて元気の良さそうな奴。そして。
「こいつこいつ。この黒髪ロングの」
「うっわぁ! 三人とも美少女揃いじゃないか! どうしてもっと早く紹介してくれなかったんだいニコル!?」
「なんであたしがいつあんたにこいつを紹介してやらなきゃいけない話になるんだよおい」
とはいえ杏里の奴とも短い付き合いじゃない。こういう反応が来ることは予想済みだったわけだけど。
「けどまあ、他の二人はともかくこいつをあんたに紹介したって仕方ないけどねえ。本当に見た目通り美『少女』ならいざ知らず、……だし」
「え? あの、ごめんよニコル? なんだかボクの耳が突然反乱を起こしちゃったようでさ、今とっても信じがたいことを聞いた気がするんだ。聞き間違いだよね?」
「いや、聞き間違っちゃいないよ。ある意味こいつ自体が間違いのような気がするけどさ!」
「え、ええ? それじゃあ……」
「うん、こいつは『男』だ。男性だ」
「えええーーー!?」
してやったり。まあ、こいつはガチで女にしか見えないからなあ。世の中広すぎる。
「まあ気にすんな、流石にこりゃこいつが悪い。ははっ、正に美しさは罪、ってやつか!」
「笑い事じゃないよニコル……ああ、儚い恋だった……」
「はえーよ! 写真見るだけで速攻か! つーかいつまでそんなMANZAIあたしにやらせる気だ」
「そんな漫才だなんて! ボクはいつだって真剣だよニコル!」
「はいはい」
話がすすまねーっつーの。
「ま、実際あたし自身言われなきゃ気づかなかったろうがね。ローマに旅行行ってたときに知り合ったんだけど……」
* * *
朝からどうにも躓く日、ってのがあるもんだけど、その日も正にそんな感じ。
オヤジとは衝突する。コーヒーが美味くない。髪の毛は引っかかる……むすーっとしてひとりで散歩して適当な店入ってドルチェと洒落込んだけど、気分が悪いせいでどうも美味くない。
ふと隣見たらそいつがそりゃもう美味そうに食ってやがる。しかもよりにもよって全く同じもんをさ!
虫の居所が悪いってやつ? 何となく絡んじまったんだよね。
「やれやれ、別に大したことないじゃんこれ。よくまあそんな美味そうに食えるね」
「えー? とっても美味しいじゃないのこれ♪」
「はん、日本人だか中国人だか知らないけど、外人なんぞに味が分かるってのかい?」
そしたらそれが地雷踏み。滔々と語る語る。後から聞いたらそいつ料亭の一人娘……じゃない、息子かこいつは。とにかくそういうことだったらしくて。
あたしは早々に白旗。ま、勝つ意味のない勝負なんてする気はないしさ。
「わかったわかったあたしが悪かった。……ちぇ、なんなんだい今日は。けったくそ悪いなぁ」
「こらこら、そんなにむすっとしてちゃ美味しいものも美味しくなくなるのは当然でしょー? あなたそんな風にがさつに装ってるけど、ほんとはかわいーい美少女のかおりがするのになーもったいない」
「いやなんだその『かおり』って。大体あたしが美少女だか何だかだったとしてあんたになんか関係あるっての?」
「そりゃもう大ありよー。かわいー女の子がおいしースイーツをおいしそーに食べている! それを眺める! あわよくば一緒に食べさせてもらう! 男の子冥利に尽きるじゃないそういうのって!」
「いや何を訳の分からんことを……って、はい?」
「うん? 何か?」
「いや何かじゃなくっていま男の子がどうのこうのって」
「うん♪」
「誰のことさそりゃ」
「もちろん、私♪」
「…………男? あんたが?」
「いえーすそのとーり♪」
「……新手の早熟ドラッグクイーン?」
「そーゆーのとはちょっと違うかな。だいいち、ドラッグじゃなくてドラァグって言うべきよそれは。それじゃおクスリみたいじゃない」
「はあ……さいですか」
なんであたしのほうが発音指摘されなきゃならんのだっつー。
なんか馬鹿馬鹿しくなってムシャクシャがどっか行っちまってさ。気が付いたら笑ってたよ。
そんで笑ったら笑ったで「女の子は笑顔が一番!」って言いやがるから尚更にさ。
* * *
「うんうん、やっぱりニコルはかわいくて素敵な美少女だよね!」
「おい口挟むところそこかよ」
「共感せざるを得ないのさ! 他人の気がしないと言ってもいいくらいに! ああ、どうしてこの子は女の子じゃなかったんだい!」
わかりやすい反応だなあ、ったく。そもそもまだ話が終わっちゃいないってのに。
あー、でも……こんなこと話せるのってのも案外こいつ相手くらいか? アルマはアルマで何話したって信じてくれそうでかえって張り合いないし。それになんといってもこいつも日本出身だしなあ。
「うん? どうかしたのかいニコル。急に難しい顔をして」
「ああ、いやさ……この例の奴。実はもう一つ秘密があるんだ。正直あたしもこの眼で見なきゃ信じやしなかったんだけど」
「というと?」
「曰く……魔女っ子、なんだってさ。ほら、日本のアニメで良くある」
「魔女っ子? ええ? いや、ニコルがそんなことでボクをからかうような子じゃないってことはよく知ってるけど……」
「まさか、って思うよな。でもまあ、あんなもん見せられちゃさあ」
* * *
その店を出た後、少し一緒に遊び歩いてたんだ。
何だかんだで気は合った。ま、事あるごとにあたしをかわいーかわいーつってベタベタしてくれるのはちょっとアレだったけど。
んで、何の拍子だったかねえ……星占いだか何だかした後だったっけ。なんか妙に真面目な顔してる。
で、尋ねてきたわけだ。「楽園ってなんだと思う?」って。
「楽園? 天国じゃなくってかい? そりゃあれだろ、ファンタジーやメルヘンじゃあるまいしってやつ」
「ん、まーね。私もそう思う」
「あはは、なんだよ人に尋ねといてあんたもそんなんかい」
「ううん、正確にはね……みんなが楽しく過ごせてたらそれが楽園だって言っちゃっていいかなって思うの。ほら、ニコルちゃんも今は楽しそうじゃない?」
「ちゃん、はやめれ。……まあそりゃ、さっきまでに比べたらね。あんたのおかげだって言ったらなんかちょっと癪だけど」
「うんうん、そんなのでいいじゃない楽園なんて。無理矢理に作ろうとしなくったってね」
「はは、なんだよそりゃ。随分とお安い楽園じゃん」
あたしはそう言って笑ってたけど……微妙に寂しそうには見えたかな、そん時は。
まあ、後から思うと、あいつずっと一人で頑張ってたみたいだしなあ。
その場はそれで終わりでさ。あたしが一体何なんだって尋ねる間もなく「あ、あれおいしそー♪」とか言って元の調子に戻っちまってたけど。
……で、翌日の晩だ。
もう旅行も終わりだしってんで、またちょっとあちこち見回ってたんだ。そしたら、外れの方でなんか光が!
……うわ、言っててこんな白々しい話もないな。でもマジなんだから仕方ない。
あたしも訳の分からないままそっちに言ってみたら……居たんだ、あいつが。
ただし、見た目は違ってた。
髪は青かったし服装も全身青ずくめ。おまけに背丈も違ってたしね。……ま、普通ならそんなコスプレ、見なかったことにして帰ってたさ。
でもあっちはあたしを見て目を丸くしている。こっちもまあ……何となくピンと来ちまったのかな。
「……ユキ? あんた、もしかして昨日のユキなのか?」
観念したように笑ったよ、そいつ。笑いながら“変身”が解けてさ。正に昨日一緒に遊んだあいつの姿に戻ってた。
そしたらそのまま崩れ落ちるから慌てて駆け寄ったんだ。良く見たらさ、あっちこっち傷だらけなんだよ。
「おい、どうしたんだよこれ! とにかくすぐに誰か呼んでくるから……」
「ん、大丈夫。大丈夫よニコル。地球を守る魔女っ子だもの、これくらいへーきへーき。男の子なんだしね、私」
「なんだよそりゃ……はぁ、よくそんな軽口叩けるなあまったく」
あたしはそう言ったんだけど……ユキのやつ、なんか嬉しそうな顔をしててさ。だから本当に平気なんだって言いたげにね。
「なんたって、たった今どこかで私の仲間も戦ってるって分かったんだもの。だから私も頑張れる。ぜんぜんへーきへーき!」
「仲間……」
ということは、なんだかよく分からないけど今までは一人で戦ってたって事か。
……なんなんだ、あたしの同年代が背負うようなもんじゃないだろ、まったく。
「気にしない気にしない。ニコルみたいな女の子を守るためなら、それだけでも頑張れちゃうんだから! ……んーと、あ、ほらあれ見てニコル」
「あれ?」
見たら、古びた鉄格子の門に南京錠が一つ。錆付ききってて二度と開かないんじゃないかって言うレベルの。
「あれをね――ていっ!」
いつの間にか手にしてた剣を一振り。あたしの目の前で見事に真っ二つになってた。
「これくらい、怪我してようがどうしようがお茶の子さいさいってわけ♪」
「…………」
強がりなのかそうでないのか。そうまでされちゃ、あたしも笑うしかなかった。
「……で、あんたはこれからも、その仲間とやらと一緒に、あたしらの楽園を守っててくれようってわけかい?」
「そーゆーこと♪」
「はは……冗談! あたしの楽園ぐらいあたし自身で守ってみせるさ! 第一、錠前たたっ斬るなんて無粋さね。あたしならピッキングで開けてみせるね」
「犯罪じゃないそれー」
「お互い様だろー」
* * *
「ふんふん、なるほどなるほど。それで今もニコルはこの子と『友達』でいるってわけだね! まったくニコルらしいじゃないか! ……って、ニコル?」
「…………改めて話すとすっげえはずい話してることに今気づいた」
「ええ!? どこがだい、美しい友情物語じゃないか!」
「追い打ちかけるんじゃねーばかやろー」
つっこみつつ、改めて写真を眺める。……あの後あたしも荒れちまって、ろくに手紙なんか出してなかったんだけどな。こいつも結構マメだよなあ。
いい加減あたしも返事出そうかねえ。
「うーん、それにしても彼はともかく一緒に写ってる二人もかわいいなあ!」
「一目惚れ発動しているところ大変申し訳ないが、片方は彼氏いるらしいぞ。そんでもう片方は……ユキと付き合ってるってさ」
「……orz」
「HAHAHA」
まあ、あたしも目下、女の恋人がいるんだからお互い様だけど。
そのこと書いたら、ユキの奴どんな顔するやら……
後書きらしき何か
題材のもうひとつはパステリオンでございます。
そんなクロスオーバーなんて書くの僕だけだって信じて疑えない。